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魔術サークル  

「だからね。物理学と魔術は似てるのよ」

 爽やかな香りを感じさせる微風と健やかな陽光が降り注ぐ屋外ラウンジにて三澤橘花は道行く学生を眺めた。子供であることを終え、しかし大人になり切らない人々。華やかなりし黄金の学生時代を過ごす少年少女達は若さをその四肢に漲らせ青春を謳歌している。
 色にして緑がかった青色、空の色だなと橘花は人ごとに思った。

「もちろん自然科学か超常かっていう違いはあるけど、その根源はとても近しい物だわ」

 私立三流大学にて繰り広げられる有象無象の人生劇の末席に座る身として、橘花もあの明るく輝きながら悲喜交々入り混じる、とぐろを巻くような情念の渦に加わってみたいと常々思っていた。
 しかし、二回生として、一年のキャンパスライフを送った結果から、油と水程度には自分に馴染まない夢なのだと気付いていた。この場合橘花が油なのか水なのかが難しいところではあるが、おおよそ多くの同期生にとっては自分”達”が油なのだろうと橘花は見当をつけていた。

「いかに魔術と言えども、いえ、魔術だからこそ仕組みという物があるの。それは原子理論的理解にも近い、より小さき源を基礎とすることで深く理解できる仕組みなの。だから数学的な考え方も魔術には必要だし、もっと言えば超常だけど常態という物が存在するのよ」

 色にして黒なんだろうな。と橘花は思った。
 それも一切の光が通らない漆黒ではなく、一切の光が吸い込まれ曲がって過ぎる重力の井戸のような真黒。吸い込まれるのか落ちるのか潰されるのかも定かではないブラックホール的な特異点。
 それが自分のキャンパスライフの全貌だと思うと橘花からは溜め息しか出てこなかった。

「聞いてる橘花?」

「聞いてるよ。アトランティスの海底神殿にはアトランティス人の古代文明が隠されているし、同時期に作られたエジプトのピラミッドはどれも当時では考えられない技法で作られていた。実はこの二つには密接な関係があったんでしょ?」

「ひどい。ひとっつも聞いてないし。橘花ひどいよ」

「聞いてたよ。茶化しただけだよ」

「もっとひどい。人が真面目に話してるのに。橘花は本当にひどい」

 頬を膨らましてむくれた眼前の少女――笹埜汐梨の愛らしさに橘花はにんまりと笑った。汐梨はおおよそどのような状況においても可愛いが、怒っているときが一番可愛い。そう橘花は常々思っているし、事実ことあるごとに彼女を怒らせて、それを確認している。
 汐梨がひどいひどいと連呼する通りに本当にひどい友人だとは思うが、橘花にとって真っ暗なキャンパスライフを楽しく過ごすための原動力というのが汐梨を愛でる事である以上、仕方がないことだと割り切っていた。

「ごめんごめん。汐梨も今日大学おしまいでしょ。この後何か奢るよ。それで許して」

「お昼ごはん。私うどんがいい」

「じゃあ駅前行こうか。はなまるでいいよね」

「トッピング無制限?」

「まさか。私の財力じゃ二個が限界です。ただしかけじゃなくてもオーケー。ぶっかけまでなら許可しましょう」

「なら鳥天とカボチャがいいな。かまたまで」

「オーケーオーケー。いいですともお姉さんに任せなさい」

「変なの私と橘花じゃ二か月しか変わらないのに」

 けろりと機嫌を直しくすくす笑う汐梨に微笑ましいものを感じながら、橘花は薄い財布にあと幾ら残っていただろうかと心の中で金勘定をしていた。春のバーゲンだからと張り切り過ぎたしわ寄せが橘花の懐を冬に逆戻りさせていた。
 それでもこの友人のことを思えば安いものである。と橘花は現実逃避をすることにした。

「じゃあ橘花。魔術の講義はお昼のあとね」

「……覚えてたか」

「何か言った?」

「ううん。別に」

 自称魔術師であるところの汐梨は、橘花が彼女を怒らせようとするくらいにことあるごとに魔術の講義を橘花にしたがっていた。自称一般人であるところの橘花にとってはそのどれもが無味乾燥な絵空事であったが、汐梨はいたく真面目であった。
 
「ねえ、何で汐梨は私に魔術を教えようとするの?」

「何で?」

 質問に質問で返されたことにより橘花は数秒押し黙った。

「……ほら、私なんて魔術のまの字も知らない人間だし。教えてもらったって理解できるとは思えないし」

「別にね、橘花に魔術を覚えてもらおうとは思ってないんだよ」

「ならなんで?」

「友達に自分のこと知ってもらいたいって思うのは当然だよ。橘花は私が魔術師だって知っても友達でいてくれた最初の人だから」

 そう言って人懐っこい笑みを浮かべながら汐梨は人差し指を振った。橘花はその指を目で追う。気が付くと二人が座っているテーブルにだらしなく広げていた雑誌や学術書が消えていた。そして汐梨の鞄が膨れている。
 それが魔術によるものなのか、それとも何かのトリックなのか、橘花には判断が付かなかった。

 ああ、真黒だ。そう橘花は思った。

 華々しい青ではない、蠱惑的な黒。ブラックホールのように実態が解らないのに、確かに橘花を惹き付ける重力の井戸。橘花が様々な人付き合いを捨ててまで手に入れたキャンパスライフの象徴。
 それが汐梨という少女であった。

「じゃあうどん食べに行こうよ」

「そだね。バスにはまだ早いけど」

「歩こう。たまにはいいよ。ダイエットにもなるし」

「そだね。汐梨最近太ったでしょ。取り戻さなきゃね」

「ひどい。橘花ひどい」

 一生懸命怒る汐梨に橘花はにんまり笑った。

category: 小説創作

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世界征服 1  

「世界征服をしようよ」

遠山から吹く五月の風が新緑と排気ガスの香りをないまぜにした空気を運ぶ。
世界を緋色に染め上げる夕日を編み目の荒い金属フェンス越しに眺めながら、僕は目を細めた。
手前には背の高くないビルがいくつか建ち並び、彼方に遠山のシルエット。その合間に夕日が落ち込んでいく。
高々四階屋上からだけど、中々の景観だと僕はぼーっと感想を抱いた。

「世界征服をしよう」

校庭から野球部の生徒があげる掛け声が響く。比較的土地が余っている半都会半田舎の地方都市にある学校だ。広いスペースでのびのびと練習をしている。
白球を必死に追いかけている様は正に青春といった感じ。
平和で平凡ないち高校の放課後が眼下では繰り広げられている。
少し羨ましいと僕は心の端で感じた。

「ねぇ、しーちゃん。世界征服をしよう?」

僕は自分の愛称が呼ばれたことに観念して後ろを振り向いた。
あわよくばこのまま無視し続ければ何も聞かなかったことに出来るのではないかとも思っていたけど、そうはいかないらしい。

フェンスに寄り掛かり体重を預けながら、僕は距離にして二メートルくらいの地点、屋上に横たわる女生徒へ視線を送った。

女生徒は長い黒髪やブレザーが汚れることに構わず、四肢をコンクリートに投げ出して仰向けに寝ている。
屋上は雨風に野ざらしになっているから相応に汚いというのにお構いなしだ。

あるいは上空に何か面白い物でもあってそれを眺めているのかとも思い、僕も空を仰ぎ見たけど、雲すら無かった。

「りお、制服汚れる」

女生徒の名前を呼んで僕は注意したけども、りおは「平気」と一言で片付けた。
注意した手前それで引き下がるのもくやしいので反論する。

「ホコリまみれになる。みっともないぞ」

「はらえば平気だよ」

「そうか?」

「そう」

そっか、はらえば平気か。確かにその通りだ。と妙に納得した僕はりおに倣って地面に腰を降ろした。
コンクリートは少し冷たかった。

改めてフェンスに体を預けると、後の方でキンと小気味よい音が鳴った。たぶん野球部がバッティング練習か何かを始めたんだろうと漠然と僕は考える。

「しーちゃんも座ってる」

「はらえば平気」

目ざとく指摘するりおに、僕は肩を竦めた。

りおはしばし僕のその様子を見てから視線を空に戻した。起き上がる気はやっぱりないみたいだ。
白く覗く太股に、風が吹けばスカートめくれるなと愚考。

「で、何するって?」

「世界征服」

「何で?」

世界征服とはあの世界征服だろうか。この世界は私の物だー的な。

りおは首をぐるりと巡らせた。
割合真剣な瞳を僕は眺める。

「だって世界征服すれば幸せになれるじゃない?」

「幸せに?」

「そう、幸せに」

漠然としてるなあ。

「今は幸せじゃないんだ?」

僕の言葉に、りおは少し影のある笑みを見せ。

「ワンマンアーミーだからね」
自嘲気味に呟いた。

ワンマンアーミーとはりおがよく自分を言い表すために使う言葉だ。
映画か何かを見て知った言葉なんだと思う。

意味としては、まあ一騎当千とか一人で一軍に匹敵するとかそんな感じなんだろう。
けどこの場合の用法としては、独りの軍隊ってところだ。

りおは学校生活不適合者だ。
友達もいなければこれといった部活動などをしてるわけでもない。
というか、あからさまにクラスに馴染めてないし、女子からは煙たがられている。

りおが美人なのもあるだろう。他人がやっかみをしたくなるくらいには美少女をやってる。それに根が正直というか自分に嘘をつけない性格をしている。そしてベタベタとした人間関係が苦手。おかげで女子が作るグループとかそういうのに適応出来ず、孤立するような言動や行動を取りがちだった。
二年生になって、その溝みたいなものは決定的なまでに深まっている。

規模が中途半端な都会で田舎な学校では、結構どぎつい人間関係が出来てしまうものらしい。
りおは女子にとっては要注意人物であり、男子にとってはあまり近づくと女子を敵に回す爆弾みたいなものだった。

クールで他人と関わりを持たない美人。聞こえは良いが、結局は孤独なだけだ。

だからワンマンアーミー。
他の生徒がグループやコミュニティを作って、まあ軍隊みたいに自分達の学校生活を守る中、りおは独りで戦い続けている。
言い出したのはりおだけど、僕もわりかし気に入ってる言葉だ。

ちなみに僕はりおとは幼なじみなだけ。
だから彼女の味方ではない。

そんなりおが世界征服をして幸せになろうと言い出したのだ。
僕の返答なんて決まり切ったものだ。

「すればいいじゃん世界征服。幸せになりなよ」

りおはまた空に視線を戻した。
「しーちゃんも一緒にやろうよ。世界征服。半分あげるからさ」

「世界を?」

「世界を」

「それで世界を半分貰って僕に何しろって?」

「幸せになりなよ。しーちゃんもさ」

まるで友達を遊びに誘うかのように気軽な口調で話すりお。
僕は少しむっとした。

「僕が幸せじゃないみたいじゃないか。それじゃあ」

「だってしーちゃん不幸じゃん」

「失礼だな君は」

りおはクスクスと笑った。そして止めにもう一度「しーちゃんは不幸」と繰り返した。
僕は当たり前だけど、不満げな顔をした。

「じゃあ今しーちゃんは幸せ?」

真顔で聞いてきたりおに、僕は視線を落として頭を掻くしかない。
だってそんなの分かり切ったことだ。

「おじさんが事故で死んでさ、おばさんだけでしーちゃん育てて、でもお金が無くて、借金作って体壊して。結局親戚の人がどうにかしたけどおばさん元気にならないし、しーちゃんは親戚の人がもう高校生だからって知り合いの寮で独り暮しさせてるでしょ?それって煙たがってるだけだし、おかげでしーちゃんは親戚の体面上お金がかかる部活とか塾とか何も出来ないし、でも援助無いんじゃないかーとか変な噂が立つと困るからバイトも出来ない。大学に行けるかも分からないし、かといって働くとなるとまた面倒な事を言われるかも知れない。自分がどうなるか全く決めれない。しーちゃん不幸だよ」

懇切丁寧に説明してくれたりおに、僕は溜息で返事を返した。
あんまり他人が口にして欲しくないことだったし、見知らぬ誰かに言われたらキレていただろう。
ただ僕の置かれている正しい立場を知っているのはりおと母の友人だったりおの両親だけだ。唯一僕の理解者だと言ってもいい。
なのでまあ、色んな感情は飲み込むことにする。

「しーちゃん怒った?」

「別に」

「嘘だ。しーちゃん怒ってるよ。目が笑ってない」

しつこく聞いてくるりおに、僕は黙り込む。
別にりおは僕との関係がどうのとかを気にしているのではなくて、ただ純粋に僕が怒ったかを知りたいのだろう。

そもそもりおは僕がりおに本気で怒ったり出来ないことを知っている。
だから悪趣味にも僕がどうされればりおに対して怒るのかを試したり聞いたりしてくる。

本当悪趣味だ。

「いいよ認める。僕はたぶん不幸だし、今少し怒った」

「やっぱり怒ってた」

可笑しそうに顔を歪ませた後、りおはまた空を見詰めた。まるでそこに何かを見出だそうとするように。

「不幸なら、幸せになりたいじゃんやっぱ。だから、世界征服をしよう」

「極端だな」

「だって、それくらいしないと幸せになんてなれないよ。私もしーちゃんも」

「そんなに僕達は不幸か?」

「ううん。私達の不幸なんてたいしたことない。もっと不幸な人は一杯いる」

りおはゆっくりと上半身を起こした。
少しウェーブがかった黒髪が風に揺らされ踊る。
りおは真面目な顔で僕、そして夕日へと視線を移した。
夕日に染められてりおは真っ赤になる。

「ワンマンアーミーやってて私気付いたんだ。私が戦ってるのはクラスの奴とか、学校とか、そんな小さな物じゃないんだって」

どこか寂しそうな目で夕日を見詰め続けるりおから、僕は顔を逸らした。
傷の舐め合いみたいな、そんな感情を抱きそうだったから。

「私は世界と戦ってる。私をへこまして潰して泣かせようとする世界と戦ってる。世界はとても手強い敵で、それは誰だってみんな一緒。だからみんな軍隊を作って戦う。自分を攻撃してくる世界ともっと簡単に確実に戦うために。国とか会社とか色々。で、学校って軍隊の作り方を教えるところなんだ。私はオチコボレで、だからワンマンアーミーやってる」

「だとしたら僕は少なくともオチコボレじゃないな。軍隊に入ることに関しては」

「でもしーちゃんは世界に負けそうでしょ?学校で作る友達程度の軍隊じゃ世界には勝てないんだよ」

「でもそれが僕達の精一杯だろ?」

僕達はまだ子供で、それくらいしか戦う手段がない。
戦う相手が世界で、負けそうだとして、どうすれば巻き返せるというのだろうか。
母は世界に負けてしまった。親戚の連中は世界の手先だ。頼る人もいないし、戦う方法なんて思い付かない。

「だから世界征服しようよ。どうにかして世界を私達の物にしよう。そうすれば私はワンマンアーミーでも大丈夫になるし、しーちゃんだってきっと幸せになるよ」

りおは手を広げてそう言った。
世界を味方にしようと。

「どうやって世界征服するつもりだよ」

「それはこれから考えよう」

「というかどうすれば世界征服したことになるんだよ」

「それもこれから考えよう」

「いきあたりばったり」

「色々と細かいなあしーちゃんは。やるのやらないの?」

ぼくを軽く睨んでりおは右手を突き出した。
しばしその白くてキレイな手を眺めてから僕は立ち上がる。
りおの前まで歩いて行き、手を掴む。

「やるか。世界征服」

「しーちゃんならそう言うと思った」

悪趣味な奴だ。
僕が断らないと知っていたんだろう。

握った手を引いて僕はりおを立ち上がらせた。

僕達の世界征服が始まった。

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